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蒔絵(平蒔絵) 作業工程

蒔絵(まきえ)の主な技法である「平(ひら)蒔絵」を学習する。
器面全体を漆で塗りかぶせる研出蒔絵とは異なり、平蒔絵は、金粉を蒔いた模様の部分だけに漆を塗りかぶせて研ぐ技法である。

準備1 上塗り

準備2 研立て

準備3 摺漆

準備4 胴摺り

準備5 摺漆

第01工程 置目

第02工程 漆絵

第03工程 絵付け/地書

第04工程 粉

第05工程 粉固め

第06工程 粉研ぎ

第07工程 胴摺り

第08工程 摺漆

第09工程 ツヤ上げ(1)

第10工程 摺漆

第11工程 ツヤ上げ(2)

第12工程 摺漆

第13工程 ツヤ上げ(3)

完成


※この教室は初心者向けの教室であり、ここで紹介している技法は一例である。
※写真は平成23年度に開催のものである。


この教室では、素地のシナベニアに木地固め・下地・中塗りまで(下記)を施した手板からスタートする。


木地固め

下地漆(生漆)をたっぷり木地に吸い込ませ、乾燥後にペーパーで研ぐ。

下地

  • (1)地の粉を水で練り、下地漆を混ぜたものを塗布し、乾燥後にペーパーで研ぐ。
  • (2)切り粉を水で練り、下地漆を混ぜたものを塗布し、乾燥後にペーパーで研ぐ。(切り粉=地の粉と砥の粉を等量ずつ)
  • (3)砥の粉を水で練り、下地漆を混ぜたものを塗布し、乾燥後にペーパーで研ぐ。

中塗り

黒中塗漆を塗布し、乾燥後にペーパーで研ぐ。これをもう一度行う。


準備1 上塗り

中塗りを済ませた手板に、黒呂色漆で上塗りを行う。黒呂色漆は、吉野紙で不純物を濾してから使用する。

まず漆刷毛で漆を木地に配り、木地のヨコ方向・タテ方向へ漆を延ばした後、最終にヨコ(長辺)方向に延ばして仕上げる。
塗った後は、表面に空気中のホコリが付着しないよう速やかに漆風呂に入れて、乾燥に移す。

▲漆を配る ▲漆を塗り延ばす(ヨコ方向)

準備2 研立て(とぎたて)

前回の上塗面を耐水ペーパーで水研ぎし、平坦にする。
まず、あて木に巻きつけた耐水ペーパー(1000番)を水で濡らし、円を描くように上塗面を研いでいく。途中、ウエスで表面の水分をこまめに拭き取り、研ぎ具合を確認しながら進める。
ある程度研いだら耐水ペーパー(1200番)に換えて更に研ぎ、表面が硯墨のようになれば終える。研ぎ過ぎると前回の上塗りが取れて中塗りが現れてしまうので注意する。

▲耐水ペーパーを水で濡らす ▲円を描くように磨く

準備3 摺漆(すりうるし)

絵付け工程での漆の吸い込みを防ぐため、ここで下地漆を摺り込む。
ウエスに下地漆を少量つけて、円を描くようにして木地に摺り込む。1・2度摺り込んだら、最後は拭き取るようにタテ・ヨコにまっすぐ延ばしながら摺り込んで、乾燥に移す。

▲漆を摺り込む

準備4 胴摺り(どうずり)

砥の粉を使って表面を磨く胴摺りをおこなう。ここで使用する砥の粉は、表面を傷つけないように、あらかじめ定盤またはガラス板の上でヘラや茶碗の胴部分で粒子を細かくつぶしておく。
はじめに全面に菜種油を指先でごく薄く塗り延ばし、砥の粉を指先に付けて、少し力を入れて円を描くように磨く。ここでの菜種油は付け過ぎないようにする。磨くにつれて指先が黒く汚れてくるので、きれいに拭き取りながら、また砥の粉を付け直して粉で油を絡め取るようにして全面を丁寧に磨く。
その後、洗剤を使って菜種油をしっかり洗い流して、水分をウエスで拭き取る。
次に準備5として摺漆を行う。(準備5は準備3と同じため記載省略)

これらの工程には次の2点の意味がある。平蒔絵は研出蒔絵のように塗り込みを行わないので金粉が取れやすいため、手板と地書き漆の接着を良くすること。また平蒔絵は、金粉を蒔いた部分のみ砥石などで研ぐので、初心者にはその周囲まで傷つけることがあるため、その修正がしやすいようにすること。
以上の工程で、蒔絵で使用する手板の準備が完了となる。

▲ガラス板上で粒子をつぶす ▲砥の粉で表面を磨く

第1工程 置目(おきめ)

置目(おきめ)とは、予め用意しておいた下絵(絵柄)を手板へ転写して、下書きとするものである。簡略な絵柄の場合などはこの工程をしないこともある。

まず下絵の上に薄い美濃和紙を重ねて、鉛筆で下絵をトレースする。次にその裏面から、蒔絵筆を使って焼き漆でトレースする。焼き漆とは、下地漆とベンガラを6:4で混ぜて粘りがでてくるまで十分に練った後、加熱沸騰させて固化しにくくしたもので、作業時間が長くなっても大丈夫なものとなっている。焼き漆の粘性が強い場合は、筆先の漆に焼き樟脳を少量つけると筆運びが滑らかになる。
焼き漆でのトレースを終えたら、その上にもう1枚和紙を重ねて余分な漆を取り除いた後、焼き漆の付いている面を手板表面に重ね合わせて、その上からヘラで強くこすると絵(焼き漆)が手板に転写される。次に、代用金粉を真綿につけて手板に軽く押しつけると、転写された焼き漆に代用金粉が付着し、下絵が出てくる。

▲鉛筆で下絵をトレース ▲裏面から焼き漆でトレース

▲手板に転写する ▲真綿で代用金粉をつける

補足 焼き漆/焼き樟脳

焼き漆を作るには、ベンガラの粒子を押しつぶすようにして下地漆とベンガラを(漆がヘラから糸を引いて落ちる程度まで)十分に練り混ぜた後、ガス等で加熱して1~2分泡立たせると完成となる。この加熱により漆に含まれる硬化作用のある酵素(ラッカーゼ)が働かなくなり、不乾性となる。

▲下地漆とベンガラを混ぜる ▲漆を加熱して軽く泡立たせる

焼き樟脳を作るには、磁器製盃の開口部に、美濃和紙を太鼓の革のように張り、その上に樟脳を置いて、十分に熱したスプーンの裏側を押し当てると、昇華により和紙を通過した樟脳が盃の内側に付着するので、それをヘラで取ると完成となる。これが焼き樟脳で、漆に付けることで、漆を薄める効果が得られる。

▲盃に和紙を張りそこへ樟脳を置く ▲十分に熱したスプーンを樟脳に当てる

▲盃の内側に付着した焼き樟脳 ▲筆先の漆に焼き樟脳をつける

第2工程 漆絵(うるしえ)

今回は、価格が高騰している金粉の使用量を節約すること及び色彩を豊かにする目的で、彩漆(=いろうるし/色漆)を用いた漆絵の技法を併用する。純然たる平蒔絵の場合は、この工程はしない。
彩漆は、赤呂色漆(透漆)に顔料を1:0.6の割合で加えて、ヘラで顔料を潰すように2時間ほどじっくりと練り、吉野紙で濾したもの。透漆(すきうるし)は透けが良く、顔料の色を壊しにくいというメリットがあるが、完全な透明ではないため、顔料の種類によっては硬化につれて漆の褐色味が少し出てくる。
顔料が含まれているため彩漆はやや乾燥しにくく、また乾燥後の色合いをよくするため、湿度を50%程度に抑えてゆっくり乾燥させるとよい。

▲蒔絵筆を使って彩漆で彩色 ▲蒔絵筆を使って彩漆で彩色

第3工程 絵付け/地書(じがき)

置目のうえから漆で絵をトレースして、次工程で蒔く金粉の接着剤とする。その前に、あらかじめ下絵からはみ出した余分な粉をティッシュで大まかにふき取っておく。

呂色漆と下地漆を1:1で混ぜ合わせた呂瀬漆を、吉野紙で濾した後、蒔絵筆につけて下絵をトレースする。輪郭を描く場合と、広い面積のところを塗りこむ場合とで、それぞれに応じた蒔絵筆を使い分けると作業がしやすくなる。
この呂瀬漆が、金粉を蒔くときの接着剤の役割を果たすが、漆を付け過ぎると、金粉が漆に沈下して、金粉の光沢が出にくくなるので、薄めに塗るよう心掛ける。

▲呂瀬漆で置目の上をトレース ▲呂瀬漆で置目の上をトレース

第4工程 粉蒔(ふんまき)

粉蒔は文字どおり金粉を蒔く工程であり、接着剤の呂瀬漆が乾く前に行う。通常の平蒔絵で蒔く金粉は4~6号といった細かい粉を用いるが、後の粉研ぎ工程において初心者は研ぎ破ることが多いので、ここでの金粉は少し大きめの丸粉9号を用いる。
粉筒(ふんづつ)に金粉を入れて、指で振動を与えて絵付けの上に金粉を落とす。この作業は慣れれば片手でできるが、初心者は片手に粉筒を持ち、もう一方の手で振動を与えるとやりやすい。粉蒔を終えたら、これを漆風呂に入れて、湿度を高めにして十分乾燥させる。

粉筒はヨシを斜めに切って、切り口に絹を張った簡単な道具で、網目の大きさに応じて種類がある。絹を用いるのは、静電気を発生して金粉とくっつくのを防ぐため。
ここでは粉筒を用いて粉蒔きを行ったが、綿蒔き・毛棒蒔きという方法もある。

▲粉筒に金粉を入れる ▲粉筒で金粉を蒔く

第5工程 粉固め(ふんがため)

粉固めとは、蒔いた金粉の上から呂瀬漆で塗り固めることである。
はじめに前工程で蒔いた余分な金粉を毛棒で掃いて取り除き、粉包みに戻す。
次に粉を固めるため、蒔絵筆で呂瀬漆を、絵のキワより若干内側まで塗る。絵の表面は、前回蒔いた金粉でザラザラしており、漆が乗りにくいのでこまめに筆に漆を付けて塗る。塗りが薄すぎると金粉を固める効果がなく、厚すぎると上から押さえる際に広がってしまうので適度な量となるようにする。

塗り終えたら和紙(ティッシュ)を被せて、ズレないように手でしっかり押さえながらヘラで2~3回軽く押さえて、余分な漆を和紙(ティッシュ)に吸いこませて取り除く。以上の工程を終えて漆風呂で十分乾燥させる。

▲呂瀬漆で粉を塗り固める ▲和紙で余分な漆を吸い取る

第6工程 粉研ぎ(ふんとぎ)

前工程で行った粉固めの箇所のみ、金粉が顔を出す程度までクリスタル砥石を用いて均等に水研ぎする。クリスタル砥石は、研ぐ場所に合わせてあらかじめペーパーで角を落としたり幅を調整しておく。
まず、水で濡らしたクリスタル砥石(1000番)で金粉を蒔いた箇所を研ぎ、途中、ウエスでこまめに表面の水分を拭き取って、研ぎ具合を確認しながら進める。その際、地の呂色漆に砥石を当てないように注意すること。また、力を入れて一気に研ごうとすると金粉が剥がれてしまうので、あせらずじっくりと研ぎ出すことが肝要である。
金粉の輝きが少し浮かび上がってきたら、クリスタル砥石(1200番)に換えて更に均等に研ぎ、輝きが十分に判別できるようになれば終える。

▲クリスタル砥石で研ぎ出す ▲こまめに表面を拭き、研ぎ具合を確認

第7工程 胴摺り(どうずり)

砥の粉を使って、微小な研ぎ傷を磨くことで、徐々に表面の艶を出す。ここで使用する砥の粉は、表面を傷つけないように、あらかじめ定盤またはガラス板の上でヘラや茶碗の胴部分で粒子を細かくつぶしておく。
はじめに粉研ぎした部分に菜種油を指先でごく薄く塗り延ばし、砥の粉を指先に付けて、少し力を入れて磨く。ここでの菜種油は付け過ぎないようにする。磨くにつれて指先が黒く汚れてくるので、きれいに拭き取りながら、また砥の粉を付け直して全面を丁寧に磨く。なお粉研ぎの際に傷をつけてしまった呂色漆の地の部分があれば、この工程で傷をぼかして目立たなくする。また、漆絵の部分は金粉部分より柔らかいので、強く磨かないこと。全体に少し艶が出ててきたら胴摺りを終える。
その後、洗剤を使って菜種油をしっかり洗い流して、水分をウエスで拭き取る。

▲砥の粉を使って胴摺り ▲洗剤で菜種油を洗い流す

第8工程 摺漆(すりうるし)

金粉が取れてしまわないように、ここで下地漆を摺り込み、金粉層を固める。この工程をせずに、一気に仕上げようとすると、金粉層まで無くなってしまう。そのため、これ以降は「摺漆で固めては少し研ぎ出す(磨く)」という作業を繰り返すことになる。
ウエスに下地漆を少量つけて、タテ・ヨコ方向に漆を延ばして、全面に漆を摺り込む。1・2度摺り込んだら、ウエスまたはレーヨン紙で円を描くように拭き取り、紙に漆がつかなくなったら、乾燥に移す。ここでは、少しでも漆の拭き残しがあると以降の工程でツヤが上がらないので、完全に拭き取ることが肝要である。

▲下地漆を全面に摺り込む ▲ウエス等で完全に拭き取る

第9工程 ツヤ上げ

さらに艶を上げるため、呂色磨粉を使って胴摺りと同じ要領で磨いていく。
はじめに全面に菜種油を指先でごく薄く塗り延ばし、呂色磨粉を指先に付けて、少し力を入れて円を描くように磨く。ここでの菜種油は付け過ぎないようにする。磨くにつれて指先が黒く汚れてくるので、きれいに拭き取りながら、また呂色磨粉を付け直して磨く。全体を磨き終え、艶が出てきたら作業を終える。
その後、洗剤を使って菜種油をしっかり洗い流して、水分をウエスで拭き取る。
この後、第10~第13工程として「摺漆を行い、乾燥後にツヤ上げ」を2度繰り返す。
(第10~第13工程は、第8・第9工程と同じため記載省略)

▲呂色磨粉で全体を磨く ▲洗剤で菜種油を洗い流す

完成

3回のツヤ上げを経て、作品が完成する。
完成品は、表装の裂地で覆った板に取り付けると蒔絵が一層引き立ち、壁掛展示に適している。

▲完成品